ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)では、心理的柔軟性を高めていくことを目的としています。心理的柔軟性とは、不快な感情や思考があったとしても、自分自身の大切なことに向かって行動を続ける能力を指します。セラピストは、この能力をクライエントと共に育む上で、行動の背景にあるメカニズムを理解する「機能分析」を欠かすことはできません。

ACTマトリックスといえば、「4つに分かれた図に書き出すツール」として知っている方も多いかもしれません。
けれど、その本質は“図を埋めること”ではなく、“対話のプロセス”にあります。
本記事では、ACTマトリックスが心理的柔軟性の育成にどう関わるのか、図を書くことを通して何が起きるのかに焦点をあてて解説します。

心理的柔軟性を育む3つの基本スキル

心理的柔軟性の土台となるのは、以下の3つのスキルです。ACTマトリックスは、これらのスキルをセラピストがクライエントに促していくためのツールとしても機能します。

🧭 1. 自分の行動に気づくスキル

自分の行動を観察するスキルは、心理的柔軟性の第一歩です。

「行動」とは、生きている人間のできることすべてです。ですから、食事や移動といった外から見える行動(顕在的行動)だけでなく、思考や感情といった本人にしかわからない内的な体験(私的行動)も含みます。これらを区別し、自身の体験に気づくことが第一歩となります。

🌐 2. 自分を取り巻く環境に気づくスキル

自分がどんな状況に反応しているのかに気づくことも重要です。

自分がどのような刺激や状況に反応しているかに目を向けることで、行動が引き起こされるきっかけを捉える視点が育まれます。

🔍 3. 「行動の機能」に気づくスキル

その行動は、どんな結果をもたらしているのか?

自身の行動(顕在的な行動も内的な体験も含めて)がどのような結果をもたらしているかを分析するスキルです。これを機能分析と呼びます。これを通じて、行動パターンの有用性や改善点を見つけることができます。

機能分析を「見える化」するACTマトリックスの全体像

ACTマトリックスは、ACTの実践をサポートするために開発されたプロセスです。その中核となるのが、機能分析を視覚的に整理するACTマトリックス・ダイアグラムです。このダイアグラムは、2つの軸からなる4つの領域で構成されており、クライエントの体験を分類・記入することで、プロセスを進行させます。

縦軸:五感の体験 vs. 内的な体験 この軸は、外から見える行動と、本人にしかわからない思考や感情を区別するものです。上側には、目に見える行動(ビデオカメラに映るような)を書きます。下側には、感情や思考などの内的な体験を書きます。両者を区別しながら記述することで、内的・外的な行動への気づきが深まります。

横軸:離れる行動 vs. 向かう行動 この軸は、自分が望まない体験から逃げようとする行動と大切な人や事柄に近づこうとする行動を区別するものです。左側には離れる行動を、右側には向かう行動を書くことで、自分自身の現在の行動がどのようにどのように機能しているのか、その機能を客観的に捉えることができるようになります。

ダイアグラムの使い方

セラピストとクライエントの対話を通じて、以下の4つの視点で、ACTマトリックス・ダイアグラムに記入していきます。このプロセス自体が、心理的柔軟性の土台となるスキルを育む共同作業となります。

右下: クライエントが大切にしたい人や事柄(価値)

左下: その大切な価値に近づくのを邪魔する、心の中に現れる考えや感情(内的な障壁)

左上: それらの不快な体験から逃れるためにとっている行動(離れる行動)

右上: 大切な価値に向かうた目の具体的な行動(向かう行動)

このダイアグラムをセラピストと一緒に記入していくプロセスそのものが、心理的柔軟性を育む3つのスキルを実践的に育んでいく場となります。

クライエントは、

  • 自分の行動を観察すること
  • どんな環境や状況に反応しているかに気づくこと
  • その行動がどんな結果(機能)をもたらしているかに気づくこと

を体験的に学んでいきます。

そうすることで、内的な体験や環境の刺激にただ反応するのではなく、自分の価値に基づいて行動を選ぶ力が育っていきます。

まとめ

ACTマトリックスを使っての共同作業の過程において、観察力・環境への感度・機能分析といったスキルが育まれていきます。特に、行動の「機能」を視覚的に描くことができるのが、このダイアグラムの優れた点です。ACTの実践を深めたい専門家の皆様にとって、このダイアグラムの活用はセッションの質を高めるための重要なツールの一つとなるでしょう。