ACTを学んでいると、専門用語や6つのコアプロセスの抽象性に戸惑うことは少なくありません。「理論は理解できた。でも、現場でどう活かせばいいの?」と悩む方も少なくないでしょう。

ACTをシンプルにするツール

そこで役立つのが ACTマトリックス です。単なる図解ではなく、気づきについてのダイアグラムとして、セラピストとクライエントが一緒に対話を進めるための強力な臨床ツールです。

マトリックスを使った対話から生まれる気づきは、結局のところ 心理的柔軟性への道標 となります。つまり、「今この瞬間に何が起きていて、どんな方向に進むのか」を可視化しながら、クライエントが自分の大切な価値に沿った行動を選べるようサポートしていくのです。

実践におけるメリット

ACTマトリックスは、ACTを学び始めた臨床家にとって取り組みやすいツールです。専門用語や抽象的なコアプロセスを直感的に理解しやすくし、セッションに落とし込むことを助けてくれます。

同時に、すでにACTを実践している臨床家にとっても有効です。セラピストとクライエントの対話を機能分析に基づいて戦略的に整理・展開できるだけでなく、「いま扱っている体験や行動が、どの方向につながっているか」を視覚的に捉えるためのガイドラインとして機能します。

こうした視覚的・戦略的な整理は、クライエントが「行き詰まっている場所」を明確にし、そこから柔軟に介入を展開するための足がかりになります。

ACTの心理的柔軟性に必要なスキルをクライエントに身につけてもらうためには、セラピストに十分な経験とスキルが求められま。しかし、ACTマトリックスはそれをシンプルに実践できる工夫が組み込まれており、経験値に応じて活用の幅を広げることができます。

つまりマトリックスは、学び始めの整理から臨床現場での実践的な応用までを支え、入門者と熟練者の双方にとって「学びと実践をつなぐ架け橋」となる柔軟なツールなのです。

ACTを実践するためのツールの一つ、「ACT Matrix」を学ぶワークショップの企画者であり、京都会場ワークショップの初日の講師である立命館大学の谷晋二先生の、ACT Matrixを使ってみるまでの経緯です


これまで何度かMatrixの話を耳にしていました。ベンジャミン(The Essential Guide to the ACT Matrixの著者の一人)とも何度か学会で話をしていましたが、実際のところ使ってみることはありませんでした。ACTは関係フレーム理論から導き出されたCBTなので、関係フレーム理論を学び、ACTの技法を学ぶことで手一杯だったからです。

昨年1年間アイルランド国立大学に客員研究員として在籍していたので、ヨーロッパの研究者と色々な情報交流をすることができました。そのたびにMatrixの話が出てきましたし、ACTのセラピストとして著名なLisa CoyneやGiovannni Misseli、Nanni Prestiといった友人たちもこぞって「良いツール」と言うので、勉強を始めました。本を読み進むとこのツールが本当によくできていることが分かります。

ACTのセラピストなら、ACTダンスをスムースに踊るためにこのツールを使うことができるでしょう。初学者なら、Matrixのワークシートを使いながらACTの6つのコアプロセスを実践することができるでしょう。

Matrixを実際に使ってみると、ACTの6つのプロセスをとてもスムースに実践することができます。セラピストとクライアントが今、どのプロセスに取り組んでいるかを視覚的に確認することできます。また、クライアントがスタックしている(身動きがとれなくなっている)ところも視覚的に表現することもでき、ある種のリマインダーとして使うこともできます。そのため、このツールはASD(自閉スペクトラム症)の人にも応用できると考えています。

私たちの研究グループでは、このツールをASD(自閉スペクトラム症)の人に応用するための実証的な研究をスタートさせました。なんとこの研究グループには、アイルランド、ブラジル、イタリア、そして日本のACT研究者が参加している国際的な研究グループとなりました。