先延ばしが問題になるとき
「今日中にやっておけばいいのに、なぜか後回しにしてしまう」。私たちは、こうした経験を誰もが持っています。多くの場合、それは大きな問題にはつながりません。「今日アイロンをかける」ことや、「今、買い物に行く」ことを後回しにしても、生活に大きな支障をきたすことは少ないからです。
しかし、その結果が大きな問題につながると分かっているのに、先延ばしがやめられないと、深刻な事態を引き起こします。
例えば:
- 宿題やレポートを提出期限まで放置する
- 重要な会議の準備をギリギリまでしない
- 大切な人との約束に繰り返し遅れる
大学の課題や仕事の重要なプロジェクト、大切な人との約束など、こうした場面での繰り返される先延ばしは、留年、仕事の失敗、対人関係の悪化といった厄介な問題につながります。
多くの大学や企業で先延ばしをしないための指導が行われていますが、その背景には、この問題が単なる怠慢ではなく、複雑な要因が絡み合っているという認識があります。
先延ばしに関わる「時間管理スキル」
先延ばしには、タイム・マネジメント(時間管理)のスキルが大きく関わっています。課題や仕事を計画的に進めるためには、次のようなプロセスが欠かせません。
- その課題や仕事の重要度・難易度を評価する
- 完了までに必要な時間を見積もる
- 大きな仕事を小さなステップに分ける
例として、1か月後に行うプレゼンテーションを考えてみましょう。単位取得に必須で、難易度が高い課題なら、後回しは致命的です。このとき、課題全体をいきなり進めるのではなく、以下のように具体的なスモールステップに分解します。
- テーマの決定(2時間)
- アウトラインの作成(5時間)
- 原稿執筆(10時間)
- スライド作成(5時間)
- 予備の時間(3時間)
これらの合計時間を算出し、1ヶ月間のスケジュールに落とし込んでいく作業が、タイム・マネジメントです。先延ばしが習慣化している人の中には、このスキルが十分に身についていないことが少なくありません。
「時間管理」だけでは解決できない理由
しかし、先延ばし行動にかかわるのは、タイム・マネジメントの問題だけではありません。
私たちは、課題を始めようとすると、「嫌だ」「めんどくさい」「やる気がしない」といった不快な感情が湧き出てくることがあります。また、「こんなことは大切じゃない」「いざとなったらできるさ」といった言い訳がましい思考が浮かんでくることもあるでしょう。
このような感情や思考といったマインド(私的体験)が、課題を始めることを邪魔し、私たちを先延ばしへと駆り立てているのです。これまでの先延ばしへのアプローチは、タイム・マネジメントの技術指導に終始することが多く、こうしたマインドの問題には十分に目を向けられていませんでした。
マインドとスキルを統合するACT
先延ばしを克服するためには、マインドの問題とタイム・マネジメントのスキルを合わせて扱うことが必要な場合がよくあります。
アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)は、この二つの問題をシームレスに組み合わせて、効果的にアプローチできます。
その理由は、タイム・マネジメント・スキルの多くが行動分析学から生まれた技法である一方、ACTもまた行動分析学をルーツとして発展してきたからです。そのため、ACTは、不快な感情や思考にどう向き合うかというマインドの問題を扱うと同時に、タイム・マネージメントのような具体的なスキルを、違和感なく治療プロセスに組み込むことができます。
ACTのアプローチが目指すのは、「やる気を出す」ことや「考え方を変える」ことではありません。不快な感情や思考が出てくるのは自然なことと受け止め、それらと共に、自分にとって大切な行動を選び続ける力を育むのです。この統合的なアプローチにより、私たちは不快なマインドに邪魔されることなく、効果的なスキルを活かして行動できるようになります。
ACTを使った具体的な先延ばし対策(価値の明確化、マインドフルネス練習、行動計画の立て方など)は、別の記事でご紹介します。

