初日の最初のセッションは、Yvonne Barnes-Holmes先生の”Process-Based Behavior Therapy (PBBT): Why a New Behavior Therapy was Needed”という講演でした。2年ほど前から、PBBTの話はABAやACBSで何度か聴いていますし、Yvonne先生たちの会社Perspective IrelandのWSにも何度か参加しています。Hofmann先生やHayes先生たちの進めているPBT(process-Based Therapy)と合わせて勉強してみると、違いと一致点がよくわかります。
人の行動に関する行動的な説明を進めていくためには、新しい理論が必要だと言うのがYvonne先生やDermont先生、Catty McEnteggart先生やCollin Harte先生(ABAIのBlogにHDMLと言語的自己概念の素晴らしい記事を載せています)たちのグループの主張です。この新しい理論というのは、アップデートされたRFTのことでHDMLフレームワークのことを指しています。スキナーの理論から、Sidmanを経てRFTというタイトルのついた代表的な本(the seminal book)で検討されたいくつかの用語や原理は、行動的な科学的説明として不適切であったり、不十分であるものがたくさんあり、より正確で適切な分析ユニットが必要であるという点が主張されています。スキナーは、行動の基礎的分析ユニットとして三項随伴性を考えたわけですが、RFTではAARRが分析ユニットの単位だと考えられ、アップデートされた理論では、AARRのコアとなる分析ユニットとしてROW-MとHDMLを取り入れるという提案です。さらにこの提案には、ROW-MとHDMLを使って、臨床的な機能分析とセラピーの方法を提供できるという点が含まれています。基礎的な理論から臨床的な技法を直接に導き出すことができるということです。この点はまさしく帰納的(inductive)な科学を目指す行動分析学と同じでしょう。

もともと、行動療法は、基礎的な理論を直接に応用することで発展してきました。しかし、基礎的な理論から直接に導き出される応用技法には、対象が限定され、実施の条件が制限されたため、臨床家が望む言語的、認知的な現象を扱うことが難しく、臨床家は、ベックやエリスなどの認知理論を従来の行動療法に取り入れて、対象を拡大することを可能にしてきました。一方で、それは行動療法の基本的な立場であった帰納的な考え方を侵襲するものでもあったのです。
それはまた、科学者の責任は、真理の追求にあり現実的な有用性ではないとされる一方で、科学者ー実践家モデルは、臨床の実践家は,科学者としての真理の追求と共に、現実的な有用性にも目を向ける必要があると主張されてきました。端的にいうと、基礎研究の科学者は、臨床場面の重要な問題にあまり関心を寄せないし、現場の臨床家は実験室での実験成果をあまりにも知らなすぎるという問題です。
基礎研究の科学者が発見した原理や技法が直接応用されることで、第1世代の行動療法が発展してきました。これはボトムアップのアプローチと呼ばれます。ボトムアップのアプローチは、科学的で確実に成果を上げていきますが、その成果は社会が望むほど十分なものではありません。例えば、認知や言語に関係する問題です。ほとんどの臨床的な問題は、認知や言語の問題が関与しています。しかし、基礎研究ではヒトの認知や言語に関連する問題がきちんと解明されたわけではありません。それで、認知的な理論とそれの基づく技法が行動療法に取り入れられ、いわゆる第2世代の認知行動療法となったわけです。その結果、認知行動療法の扱える問題は格段に広がり、現在の心理療法の主流となってきました。この動きは、アクセプタンスやマインドフルネスの技法を取り入れた第3世代の認知行動療法で、さらに広がっていきました。
一方で、本来の行動療法がもっていた帰納的な、ボトムアップのアプローチは弱まっていきました。一言でいうと、基礎研究で確認された技法の応用という点では、第2、3世代の認知行動療法は基礎研究の成果とどんどんギャップを広げていったのです。近年のCBSの研究のいくつかは、このギャップを埋めようという研究です。先ほどのYvonne先生たちのアップデートされたRFTは、そういう流れの中での研究です。基礎研究の成果と臨床研究を結びつけるためには、新しい理論が必要だというのが彼らの考えです。
もちろん、新しい理論を基礎研究に持ち込むということに慎重な研究者も多くいます。基礎研究は、新しい理論を持ち込むことをあまり歓迎しません。つまり、現状の理論で説明できないことがあったときに初めて、新しい理論が持ち込まれます。現状の理論、例えばスキナーの理論(あるいはRFT)で充分だという意見もたくさんあります。そういう点では、RFTは行動分析学の中でずっと少数派でした(今もそうかもしれません)。
ですから、Yvonne先生の講演のタイトルが、“Process-Based Behavior Therapy (PBBT): Why a New Behavior Therapy was Needed“(なぜ新しいセラピーが必要か)というのは、まさに的を得たものだと思います。この講演では、アップデートされたRFTという理論から直接導かれたセラピーが必要だという主張が報告されました。ACTや臨床行動分析で用いられている機能分析は、基礎研究で扱われる行動の機能の分析とは、違っていて、新しい機能分析が必要なのです。

