ロンドンのUniversity College London(UCL)で開催されたACBSのUK & Ireland 支部のカンファレンスに参加してきました。

UK & Ireland 支部のコーディネートをしているリン・ファレル(Lynn Farrell)が6月に日本に遊びに来ていて、一緒に夕食を取る機会がありました。その折に、11月にカンファレンスがあるので来ないかと誘いを受け、ちょうどルール支敗行動のプライアンス尺度に関する研究の一部がまとまったので、発表をすることにしたのです。

UCLはベッドフォード・ウェイ(Bedford way)に面したところにあるのですが(大英博物館から歩いて10分ほど)、日本の学会のように、案内の人が立っているわけでも、カンファレンスの看板があるわけでもなく、周辺を20分ほどウロウロとしてしまいました。受付を終えたところで、木下先生(イーストアングリア大学 University of East Anglia・准教授)が、声をかけてくれました。彼女は、今年の日本認知・行動療法学会でオンラインでの教育講演(とても素晴らしい内容でした)をしていましたが、今回はプレナリー講演の登壇者として参加していました。

二日間、最初から最後までセッションに参加したカンファレンスでした。支部のカンファレンスということで、学生やPh.Dをとったばかりの研究者の発表も多く、まとまりの欠けた発表や、スライドの作り方や話し方が上手でない人もいて、そういう人の発表のときには、急激に英語の聞き取りができにくくなります。一方で、プレナリー講演(全体講演)に登場する研究者の発表は、論旨明快で、スライドもわかりやすく、1枚のスライトで、1つのメッセージを伝えようとしているので、私の英語の聞き取りのまずさを補ってくれます(当たり前ですが、英語圏の支部のカンファレンスなので、日本人からすると英語のスピードがものすごく早い!)。

4つのプレナリー講演がありましたが、どれも丁寧でわかりやすい発表で、とても多くのことを学ぶことができました。トータルで12のプログラムに参加しましたが、個人的に印象深かったのは、サラ・キャシディ(Sarah Cassidy)の ”Swiming with the tide of your emations”でした。その発表の内容については、また別のコラムでご紹介します。

最初のプレナリー講演はジョー・オリバー(Joe Oliver)の ”Back to the Future: Exploring the history of ACBS UK and Ireland to strengthen community belonging and purpose“でした。

ジョー・オリバー(Joe Oliver)は、ACTの誕生から現在までを、UKとアイルランドとのつながりを含めながら解説し、将来についての課題を提案していました。とても整理された内容で、随所に写真とジョークをまじえて、聴衆を惹きつける講演でした。スライド、話し方、内容ともにスキルフルなもので、お手本になりました。内容はThe Oxford Handbook of Acceptance and Commitment Therapyの第1章をUKとアイルラントの関係を交えて、解説したものでした。

今後の課題として、いくつかの重要なポイントを指摘していました。

ACTのRCTはたくさん実施されていますが、そのほとんどが、WEIRD(西洋の、近代化された、民主的で、裕福な)の人たちを対象にしていて、特定の層の結果が過剰に反映されている懸念があるので、多様な人々、地域を含めた研究が求められていると指摘していました。それから、心理的柔軟性を測定するためのもっと良い測定手段の必要についても言及していました。

ACT研究のサンプリングの偏りから生じる問題については、以前、このサイトのブログでも記事にしていますので、よろしければご覧ください。

ジョー・オリバー(Joe Oliver)は、将来に向けての重要なポイントとして、コミュニティに属する者の一人としてコミュニティと連携しながら、コミュニティに貢献する研究をもっと推し進めていくことを挙げていました。とても前向きなオープニングにふさわしい講演でした。

昼食休憩の時にポスター発表です。みんなモグモグしながら、いろいろなことを(発表以外のことも)話し合っています。支部のカンファレンスで、旧知の人たち同士なので、発表は後回しという感じです。

その後は、”知的障害をもつ人へのACT” 、”スポーツでのACT”と2つのプログラムに参加しました。面白かったのは、”スポーツでのACT”というパネディスカッションでした。最初にフロアから、質問を受け付けて(海外の学会では、とてもたくさんの人が手を挙げます)、司会のレイ・オーウェン(Ray Owen)が、パネリストに質問をふっていくという、ライブ感のあるプログラムでした。こういうやり方もいいなぁと思いましたが、日本だと質問が出ないだろうなと思ったり・・・。そのなかで、いくつか興味深い質問が出されていました。「ケガからの回復について」「ACTとスポーツ心理学の違いと類似点」「アスリートの加齢」等です。

最後は、木下先生のプレナリー講演 ”Caring for carers: Internet-delivered self-help Acceptance and Commitment Therapy for family carers of people living with dementia (iACT4CARERS) “に参加しました。これは、日本認知・行動療法学会の教育講演の内容をより詳しくしたもので、切れ味の鋭い発表でした。

初日が終わった後、木下先生と一緒に夕食を取りながら、カンファレンスの感想や日本のこと、イギリスでの生活のことなど、話し始めるとキリがなく、とても楽しい時間を過ごすことができました。

国際学会に参加すると大変なのが、英語の聞き取りです。英語を母語とする人たちの話すスピードついていくのは大変で、たとえよく知っている内容でも、半分くらいしが聞きとれないこともよくあります。それで最近は、otter.aiというアブリを使用しています。英語をディクテーションしてくれるだけでなく、アブストラクトも作成してくれます。このアブストラクトがとても良くてきていて、最初に話の流れごとに要点をまとめて、そのあとで全体の要約を作ってくれます。会場(200人くらい収容)の片隅にいても、きちんと聞き取りをしてくれます。今回は12個のプログラムに参加しましたが、後で思い出すのに、この要約は、とても役立ちました。プログラムに参加している途中で、アイデアを思いついたり、メモをとったりしている間に、話についていけなくなることがあっても要約を手かかりに、振り返ることができます。こういうテクノジーの進歩は、英語を母語としない我々が国際学会という先端の知識にふれる大きな機会を増大させてくれるでしょう。