日本認知・行動療法学会50周年の記念大会では、4つのオンデマンドの教育講演が公開されています。海外でご活躍中の4名の日本人研究者、臨床家の方々による講演です。

木下先生のレクチャーからは、認知症の介護をしている家族に向けたオンラインのACTを提供するプログラムを開発する研究の流れを学ぶことができます。当事者、ステークホールダー、介入の提供者からの意見を聞き、どのような要素をプログラムに組み入れる必要があるのか、そのプログラムは利用者に本当に必要とされているのか、実際にそのプログラムが開発されたときに利用可能なのか、などを検討しています。プログラム開発の際に、社会に利用可能なプログラムとなるのかを重視していることがよくわかります。

次に、久留宮先生のお話を聞きながら、Skinnerの”Why we are not acting to save the world?”という論文を思い出しました。Skinner が1987年にこの論文を発表してから、40年近くが経ちましたが、我々は40年前から続く、まだ多くの問題を解決できないままです。 久留宮先生の話は、このことに向けて我々が行動するために、行動分析、ACT、RFT、進化学が貢献できることを話してくれています。私が、本大会の企画シンポジウム(「認知行動療法の近未来」)で話をしたかったとこもまさにこの点でした。企画シンポジウムに興味を持たれた方は、ぜひ久留宮先生の講演もお聞きください。

増田先生の教育講演は、第2、第3世代と呼ばれている認知行動療法が、古くからの問いを新しい形で問い直しているという点を、分かりやすく解説しています。古くからの問いというのは、Paul (1969)が述べた「どんな介入が、誰によって、どんな環境で行われることが、ある特定の課題を持つ個人に最も効果的なのか、そして、それはどのようにして効果的なものとなっているのか?」(p,44)というものです。PBTでは、「どのようなコアとなる生物心理社会的プロセス(core biopsychosocial processes) が、この状況下でこのクライアントに、このゴールが与えられた時にターゲットとされるべきか、そして最も効果的に、効率的にどのように変化させられるか」(Hofmann & Hayes, 2019, p.38)という形で問い直されています。そして、この問いに答えるためには、どのような技法を使おうとも、機能分析に基づいたidiographicIなアプローチに立ち返るということの大切さを増田先生は強調していました。私自身、とても納得のいくお話でした。

平井先生のお話では、Expressive writing(EW)がPTSD関連ストレスに及ぼす効果を検討した研究が紹介されています。EWがPTSD関連ストレスや抑うつの低減に効果的であることがご自身の研究データを用いて紹介され、作用機序についての検討が行われています。先生のデータからは、従来指摘されていたEmotional Processing Theory (EPT)を支持するデータは得られず、Inhibitory learning model (制止学習モデル)がEWの作用機序のメカニズムの可能性があるということでしたが、EWの作用機序は一つではないかもしれないと示唆されています。

興味深いのは、感情を書くことと、事実を書くことでストレスや抑うつに与える影響が異なっているというデータ(感情を書く方がストレスや抑うつの低減効果が、事実を書くことよりも大きい)が示されていた点です。

作用機序をレスポンデント学習の立場から検討されていますが、オペラント学習として考えてみることができるのではないかと思いました。書くということはオペラント行動なので、それを維持している聞き手との相互関係として分析してみるということです。体験を書くということをオペラント行動として考えると、書き手自身が聞き手となるのか、それともセラピストあるいは研究者が聞き手となっているのかによって、その効果は異なるのではないかと思います。EWは私的出来事のタクトであると考えると、感情をタクトすることを反復するのは、マインドフルネスの感情に気づき、それを記述し、反応しないというプロセスを含んでいるのではないかと思いました。